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備前の陶芸師  稲荷 作氏
 備前焼きは田んぼの土にうわぐすりもかけないで焼いたものだなどとよく悪口を
言われるが、実際には岡山県の今は田んぼになっているある地方の地下10メートル
位の層の黒土を掘り出して使う。掘り出しても何万年以上も前の土だから、1年ほど
地上に置いて時々かき回し、空気を吸わせる。従って他の陶土より手が掛かるのだ
そうで、出来上がった焼き物の色も格別の味だ。歴史は非常に古く、最初は生活用具
として焼かれていたから形は無骨だが、素朴な匂いがする。釉薬は一切使わない
とはいえ、焼いている時に燃料の藁の焼けて灰になったのが飛んでくっついたり、
積み重ねてある他の品物の影になって生焼けのようなあとがついたりして、ゴマとか
火だすきといった、陶工も予期しなかったような模様が出来、たいへん趣きがある。
 今日はそんな備前焼を見に、横浜の高島屋に行ってきた。備前の陶工稲荷 作(イナリ
ツクリ)氏の作品展で、彼とは26年來のつきあい。
 変わった経歴の持ち主で、広島県の生まれ。青山学院大学の神学部を卒業したが、
牧師になる道を捨てて、後で備前焼の人間国宝になった藤原雄氏の門を叩いた。最初は
なかなか入門を許されなかったが、彼の情熱にほだされてやむなく弟子にしてくれたという。
だからはじめは弟子と言うより事務などをまかされた番頭さんみたいだったらしいが、
最後まで師を裏切らないのは彼だろうと言われていた。
 そんな彼が師の元を離れて独立したのはまさに晴天の霹靂だったが、師匠の言いつけを
忠実に守り、今では見事な作品をつくるようになった。彼が独立して結婚した時の引きで物に
配った湯のみはいまだに大事につかっているが、それと比べて今の作品は同じ人がつくった
とは思えないほど素晴らしい。
 帰りにビール用のコップを一つ求めてきた。備前焼は空気を通すし、そのうえ薄く出来て
いるので、ことに夏などビールの味が一段と引き立つ。
by pincopallino2 | 2009-07-19 16:34
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