こんなに寒い日が続いて東風(こち)もろくに吹かないのに
梅の花が咲き出した。この頃になると徳富蘆花の「自然と人生」だか
「みみずのたわごと」だかの中の一文「お馨さんの梅」を思いだす」。
イタリアでは日本のと同じ梅はなかったと思う。お陰であの春先の
芳香は味わえなかった。代わりにアーモンドやプルーン類は多かった。
南イタリア、アルベロベッロ近くの、耕したばかりで黒い土だけの
畠。片隅にあるトゥルッリ造りの農具小屋の傍らにアーモンドの木が
1本、ちらほら咲き出した花をつけて立っていたのが目に焼きついている。
北イタリアのパダーナ平原を走っていたら目の届く限りの両側に
植わったプルーンの木が満開でまるで桃色の海の中を走っているような
感じだった。