日本人逃避行   32
 隣接の監房に入牢している囚人が中庭で食事する様子を覗き見したところでは、
大半は囚人服の黒人であったが、平服のドイツ人を見受けたこともあった。
 囚人達の移動は頻繁で、未明に鍵と扉の開閉で連れ出された者は当日銃殺刑に
なったことを看守兵から告げられ、平服のドイツ人もゲシュタボのスパイとして銃殺
される一人だと耳打ちされてからは、起床時刻より早い看守兵の訪問にはいよいよ
銃殺への連行かと観念したこともしばしばであった。
 囚人の多くは既に常軌を逸した者が多く、看守兵と激しい口論を交わす者、監房内を
飛び跳ねて物を投げあうなどドタバタ暴れ続け、時には体当たりで扉を壊そうとする
者も折り、又檻に入れられた動物の叫びか,野犬の遠吠えか、幼児の悲鳴か
形容しがたいうめき、叫び、わめきを続け、夜中は看守兵の注意も聞き入れず、
一層激しさが増すこともあって、気味悪い恐ろしさで全員が眠れない夜も随分あった。
恐らく死刑を言い渡された、弱い人間の断末魔の苦悩の表現であろうとお互いに話し
合った。
 看守兵も随時交代変動したが、ある時、扉の小窓から外を覗き見していた我々の
一人に、看守兵が自分の読んでいた新聞〔Stars and Stripes)の一面を見せ、
米兵捕虜が目隠しして坐らされた背後に日本兵が日本刀を大上段に構えて斬首する
寸前の三段抜きの写真を指差して、日本は米兵捕虜をこのような目にあわせて
いるのだから、お前たちもそのうちに銃殺されるのも当然だろうと言う意味の事を口走った。
(続く)  
=戦争中のタイムズだかニューズ ウィーク誌の表紙にアメリカの女性が日本兵の
頭蓋骨を持ってニッコリ笑っている写真を見たことがある。スターズ アンド ストライプスの
写真が本当か或いは合成した作り物かは知らないが、いずれにしろ戦争は忌まわしい
ものだ=
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by pincopallino2 | 2009-03-23 11:11
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