入房して間もなく検閲、点検の際に教誨師(従軍牧師)と思われる将校が時々
同道して、我々に何か不満がないかとその都度質問した。日本の刑務所でも 死刑囚は刑の執行前に教誨師の教えを受けると聞いていただけに、捕虜の 扱いや監房の性格、周囲の状況から、もしかしたら看守兵の言ったように 銃殺刑に処せられるのではないかと、益々真剣におびえるようになり、日本が 今挙国一致で米国と激戦中であり、もし銃殺されるなら「日本帝国万歳」と叫んで 死のうと話し合った。もっとも我々一行のうち、別の経路から遅れて入所してきた 者から、在独日本大使館の大島大使以下陸海軍武官なども米軍に捕らえられたが、 誰一人として自害などする者もなく、平然とバートガスタイン(Badgastein)の ホテルに収容されていると聞いて、民間人である我々が敵の捕虜になっても つきつめた覚悟をする必要も無いだろうと、若干気持ちが安らいだ。しかし、 たとえ敵国の日本人とはいえ、男子だけを捕らえて重要犯罪人かスパイ同様、 或いはそれ以上に冷遇して、更に銃殺刑とまで威嚇されては、無実の罪で 死刑の宣告を受けて入牢して入り被告もかくやと思うような憤懣、無念を覚え、 その精神的重圧は肉体の苦痛をはるかに超えるものであった。教誨師には 「何故こんな処遇を受けるのか」とか「いつになったら出房できるのか」と質問し 細かい日常の処置についての要求を申し出たが、常に無回答であった。
by pincopallino2
| 2009-03-25 11:19
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